スルガ銀行に奪われた平穏な日々
私は1987年生まれ、現在35歳の医師です。2012年3月に大学医学部を卒業し、現在はクリニックで日常診療をしつつ、病院の非常勤勤務、産業医、大学で就業および研究に従事しています。
家族は妻と1歳の子供です。現在は不動産投資の赤字を補填すべく、家族を養うために、土日を含めて連日深夜まで就業せざる得ない状況です。貴重な幼少期の子供と一緒にいられる時間が限られてしまう日常に、日々悲しさと無念さを痛感しております。
破綻リスクがないことをスルガ銀行が保証している物件
2015年8月、10月、11月に不動産業者O社から紹介された地方の中古アパートをスルガ銀行新宿支店(担当:A氏)で融資を受けて合計5棟購入しました。不動産業者からは、全物件とも現状で満室であり、仮に空室が発生しても安定するよう全物件とも経営が安定するまで無期限でサブリースを続けること、一切の大規模修繕が発生しないよう新築同様レベルまで修繕を行った上での引き渡しになること、担保価値の高い物件であり任意のタイミングでいつでも売却できると説明されました。またサブリースや大規模修繕などは全てスルガ銀行も承知している事項であり、いずれも融資条件となっていること、融資審査時の少額の資産でも全く問題なく融資を受けられることをスルガ銀行が保証していること、スルガ銀行は基本的に諸経費を含めてオーバーローンが一般的であり融資に違法性はないこと、破綻のリスクはない物件であることをスルガ銀行が保証していることを、再三に不動産業者から説明されました。また売買代金変更及び手付金額変更の覚書は、スルガ銀行新宿支店の担当者の前でも提示されており、融資を受けるための必要書類であると認識しておりました。
金融機関から融資を受けたのは初めての経験でした。職業は医師であるものの、融資を受けた当時は自己資金300万円程度と、金融資産に恵まれている状況ではありませんでした。そのような自分でも、4億7千万円を超える融資を受けることができたのも、それだけ物件の価値が高いものであったからであると認識していました。特に不動産評価を金融機関も行なった上での融資決定でしたので、不動産価格が本来の価値と大きく乖離があると考えるには困難な状況でした。ましてお金を社会全体に送り出す心臓の役割を担うのが金融機関であり、徹底したコンプライアンスに基づき、厳格に融資審査されていたことを疑う余地は一切ありませんでした。
融資後は不動産業者によるサブリースが続いたためローン返済は滞りなく行なっていましたが、2016年9月にはサブリースが一方的に打ち切られました。サブリースが打ち切られた途端、満室稼働ではないことが判明し、賃料収入は大きく減少してしまい、ローン返済に給与からの補填が必要となりました。また融資条件であった各物件の大規模修繕に関して、十分に施行されていない(全物件とも一切の大規模修繕が不要な状態で引き渡すとのことであったが、外壁塗装やエレベーター交換、高架水槽の交換など、明らかに老朽化している設備に修繕がされていない)ことが判明しました。
スルガ銀行による不正融資の発覚
このような厳しい状況の中、2018年5月15日に、スルガ銀行より「シェアハウス関連融資問題」に関する内部調査報告書が公表されました。2018年10月5日には、スルガ銀行ホームページに金融庁からの行政処分を受けた旨の報告書が開示されました。物件の売却活動は継続していましたが、そもそも相場よりも高値で物件を購入させられており、残債と同程度での売却はほぼ不可能な状況であったところに、スルガ銀行の不正融資に端を発した不動産投資への金融機関の融資の引き締めが状況の悪化に拍車をかけ、物件売却の一切の目処は潰えてしまいました。
2015年の融資審査の申し込み当時、自己資金300万円程度であった私が、4億7千万円を超える融資の承認されたことにはかねてより疑問を抱いており、2020年4月にスルガ銀行に融資資料の開示請求をしたところ、その理由が明らかになりました。そこには目を疑うような数々の融資資料の改ざんが見つかりました。
特に預貯金の改ざんには絶句しました。不動産業者に融資審査の為に住信SBIネット銀行と新生銀行の口座履歴を提出しましたが、両行合計で合計7000万円以上の預金金額の預貯金の水増しがなされており、全く真実と異なるものでした。
スルガ銀行に対して、不正融資であることを通知し、解決策について協議するよう打診しました。金融庁からの行政処分のきっかけとなった内部調査報告書に記載されていた不正融資と、全く同一のことが私のケースにも該当していたことは明白です。しかし、スルガ銀行の代理人弁護士による通知では、融資審査の不正にスルガ銀行行員の関与は一切ないとの一点張りであり、真摯な対応とは程遠い回答に、愕然とするばかりでした。
悲惨な物件収支
2016年9月に不動産業者によるサブリースが一方的に打ち切られ、経営状況は窮地に立たされます。捏造された預貯金を返済原資にする架空の収支計画の上で承認された融資です。物件の収益性に対して、大幅に水増しされた物件価格であり、家賃収入だけではローン返済をすることができません。保有物件はどれも法廷耐用年数をほぼ超過した極めて入居付の厳しい物件です。それでも何とか入居率を改善しようと必死に努力し、コロナ禍にも関わらず店舗の入居を維持した現在でも、年間収支は大きなマイナスです。ローン返済や固定資産税の支払いの為に、月当たり20万円以上を給与収入から補填している状況です。残債期間はまだ20年以上も残されていますが、物件の収益性で完遂することは不可能であるとともに、給与での補填を継続していくことは極めて困難であることは自明です。
スルガ銀行が融資条件とした大規模修繕についても、未施工のものが多々あります。具体的にはエレベーターの交換や屋上防水、共用部階段の改修工事であり、合計で1800万円近くの見積もりが出ています。
奪われた平穏な日々
物件の収益力に乏しく、修繕しやローン返済を給与所得から補填する日々が続いています。
借金返済のために、ひたすら労働するしかありません。平日は12時間勤務、土日返上で仕事を続けています。心身ともに疲弊し、通勤時には線路に飛び込もうと本気で考えることが多々ありました。ただそんな時に思い浮かぶのは、愛する妻と生まれたばかりの我が子です。スルガ銀行から融資を受け、抑鬱状態であることを察している妻は、家では明るく振る舞い、いつも励ましてくれます。1歳になる子供の成長が分かるように、毎日のように家での様子を写真や動画で共有してくれます。希死念慮を感じた時は、愛する家族の写真や動画を見ることで、その想いをとどまらせてくれます。愛する家族には平穏な日々を提供すること、その使命感だけが、私を突き動かしています。こんなに素敵な家族がいなければ、私は自ら命を絶っていても何ら不思議でないほど、精神的に追い込まれています。ただ働き方をいつまでも維持できません。現在の就業時間は、法廷就業時間を参考にすると、時間外勤務時間として80時間を大幅に超過します。心血管疾患の発症やメンタル疾患の発症リスクが極めて高い状態です。融資を受ける際に団体信用保険に加入しました。愛する家族を露頭に迷わすことはできず、万が一の時はその保険を活用することを、真剣に考えています。
また私のキャリアプランも犠牲となりました。大学院卒業後には、海外へ研究者としての留学の推薦を受けていました。帰国後は大学職員としてのポストまで約束してくれていましたが、その推薦を断らざるを得ませんでした。スルガ銀行からの借金に加えて、留学費用まで工面することは現実的に不可能でした。私の留学断念という選択は、研究者としての信用も揺るぎ、出世を諦めることと同義であり、もう取り返すことはできません。
そしてスルガ銀行から融資を受け、同様の境遇の方が数多くいることを知りました。投資は自己責任との自責の念に押しつぶされていましたが、これだけの定型的な不正融資と、多くの被害者の存在を目の当たりにしました。そして第三者委員会により金融機関としてあるまじきコンプライアンス違反が白昼の下に晒され、金融庁から行政処分まで命じられたスルガ銀行です。このあまりに理不尽な状況は、本当に私の自己責任で片付けられる問題でしょうか。答えは否です。何より客観的な事実として、金融庁が不正融資被害者に真摯に対応するよう、行政指導として名言しています。
スルガ銀行は被害者と真摯に向き合い、不正融資問題について当事者同士が納得する形で事後処理を行うべきです。被害者のこれまでに奪われた時間に思いを馳せてください。被害者の家族、親族の苦悩を想像してみてください。過去の不正を正面から受け止め、精算し、スルガ銀行の行員が胸を張ってご自身の職場を口にできるような、信頼ある金融機関として再建することに全力を注いでください。
これ以上、私の時間を奪わないで下さい。全世界で猛威を奮うコロナウイルスの感染に苦しむ患者の診療に集中させて下さい。そして私と家族の平穏な日々を返してください。